特集 情報伝達物質としてのATP
特集に寄せて
井上 和秀
1,2
Kazuhide Inoue
1,2
1国立医薬品食品衛生研究所薬理部
2九州大学大学院薬学研究院化学療法分子制御学講座
pp.92-94
発行日 2001年4月15日
Published Date 2001/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425902502
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ATPが神経伝達物質であるという概念はバーンシュトック先生により四半世紀前に提出されたにもかかわらず,1993年のATP受容体クローニング成功まではなかなか認知されなかった。クローニング成功以来世界では急速に研究者が増え,論文も毎年700報以上(2000年実績)掲載されるまでになったが,国内での研究基盤は脆弱の感を否めない。
その理由を考えたとき,実にそれはATPの作用の多様性に行きつく。生体の中でATPおよび関連ヌクレオチドに反応しない細胞・組織を探すのが困難なほど,ATP受容体はあまねく多様な組織細胞に発現しており,それぞれで実に多様な反応を引き起こす。この多様さのために,対応する国内研究者は分散してしまい,かつ神経系にしても免疫系にしてもそれぞれの分野では関連した研究がすでに深化しており,その土俵でATPの独自性を強烈にアピールすることはかなり困難であった。ATPはその作用が多面にわたっていることから全体を把握するためには総合的な基礎研究が必要であるが,現段階ではATP研究の提案書は層の薄い総花的なものになってしまい,かつ研究費の全体規模(パイ)が小さいために,このタイプの研究にはなかなか研究費がまわらない。しかし,世界のATP受容体機能の研究は急速に発展しており,様々な病態との関連が時々刻々と明らかにされており,わが国の研究の立ち後れに危機感を募らせる日々であった。
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