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特集 脳腫瘍研究の最前線―遺伝子解析から治療まで
特集に寄せて
Introduction
中里 洋一
1
Yoichi Nakazato
1
1群馬大学大学院医学系研究科病態病理学分野
1Department of Human Pathology,Gunma University Graduate School of Medicine
pp.730-731
発行日 2009年7月1日
Published Date 2009/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416100513
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- Abstract 文献概要
頭蓋内に原発する腫瘍は多彩であり,最近のWHO分類では130種類以上の腫瘍型と腫瘍亜型が登録されている。そのうち神経外胚葉に由来する58種の腫瘍は狭義の脳腫瘍と呼ばれている。この中には増殖が緩やかで限局性の腫瘤を形成するものから,増殖能が高いもの,顕著な浸潤性増殖を示すもの,播種が高頻度に発生するものなどが含まれており,生物学的態度は一様でない。共通することは,発生部位の神経機能を障害し,神経・精神症状を発現して患者を苦しめ,そして治療が困難なことである。脳腫瘍の発生メカニズムを明らかにするとともに,治療方法を開発し,やがて脳腫瘍を撲滅する日を迎えることが,すべての脳腫瘍患者,医師,研究者の悲願である。
脳腫瘍に対する科学的研究の歴史は,“glioma”の名称を初めて用いたVirchowの時代までさかのぼることができる。脳腫瘍の組織像の多様性を神経組織の細胞発生と結びつけたRibbertの着想と,スペイン学派と呼ばれたCajal,Hortegaらによる神経解剖組織学の膨大な知見とをもとにして,BaileyとCushingは脳腫瘍の組織発生学的分類を1926年に確立した。これは脳実質細胞の分化を横軸,成熟度を縦軸とした2次元の神経組織発生図面上に,それぞれの細胞に対応する腫瘍を位置づけ,細胞の名称にちなんだ腫瘍名を付与したものである。これによって16種類の腫瘍型が,分化と成熟度の観点からみごとに整理されている。このような正常細胞の発生分化ヒエラルキーと腫瘍との対比は,造血系腫瘍の領域において盛んに用いられており,造血幹細胞概念を経て白血病幹細胞が証明されるに至る理論的基礎をつくってきた。
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