Japanese
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特集 ニューロンと脳
目的指向的行動を制御する前頭前野の神経ネットワーク
Control of goal-directed behavior by prefrontal cortical network
田中 啓治
1
,
松元 健二
1
Keiji Tanaka
1
,
Kenji Matsumoto
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター認知機能表現研究チーム
pp.60-70
発行日 2004年2月15日
Published Date 2004/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100671
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前頭前野は視床背内側核から線維投射を受ける前頭葉の前部に広がる領域の総称である。第一次運動野の前にある運動前野や補足運動野などの高次運動野は前頭前野に含まない。大脳の他の領域の損傷の場合に比べて前頭前野に損傷を受けた患者の症状を明確に捉えることは困難であった。日常生活の中では,患者によって衝動性,社会性の低下,同じ動作を繰り返す固執傾向などが観察された。現在では,ウィスコンシンカード分類テスト,ロンドン塔テスト,ギャンブリングテストなど,より複雑な臨床心理テストで前頭前野損傷の影響は比較的一貫して捉えられている。
サルを用いた破壊実験では,主溝を中心とした前頭前野背外側部の破壊が遅延反応の実行を障害することがJacobsen1)により観察された。無麻酔のサルから単一細胞活動を記録する技術が発達してくると,サルが遅延交替反応を遂行している間の主溝領域の細胞活動が久保田と二木2)により記録され,前頭前野研究の新しい時代が始まった。遅延反応の遅延期における能動的短期記憶に対応する細胞活動は二木3)により初めて記録されたが,Millerら4)が導入し,Baddeley5)が定式化した作業記憶(working memory)の概念を,Goldman-Rakic6)が遅延期に維持される前頭前野細胞活動の解釈に持ち込むと,作業記憶の座として前頭前野の機能を考える傾向が強まった。しかし細胞活動記録実験法の限界もあって,必要な情報を能動的に選択,保持,そして操作を加えるという作業記憶の本来の概念の中で情報の保持の部分だけが強調され,情報の処理の部分が軽視される傾向があった。
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