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オートポイエーシス(自己制作)は,チリの神経生理学者マトゥラーナによって,ギリシャ語から作られた合成語である。システムの作動のもっとも重要な特徴を,システムそのものの形成プロセスに置く。形成プロセスは,学習,回復,再構成のような場面に半ば必然的に含まれている。形成経験とは,以下のような場面である。たとえばゴッホの絵を見ることは,絵を対象として見ることと同時に,見ることの形成を行ってしまっている。ゴッホの絵に含まれる黄色は,通常経験のなかに出現することのない黄色であり,色合いではなく,黄色の激しさが類を見ない。また初めて歩き始めた幼児は,一歩歩くごとに歩く行為をつうじて行為する自己を形成している。歩くと同時に歩く自己の形成が生じる。そのため本来同じ一歩を歩くことができない。一般に心の本性は知るという機能を基本にして考えられている。ところが心は,知ること以上に多くのことを行っている。情動は知ることであるより,むしろ自己触発的な運動であり,精神と呼ばれる機能は,知ることだけではなく,自分自身を作り出し,変えていく働きをしている。この形成プロセスをメカニズムとして定式化したのが,オートポイエーシスである。自己組織化の延長上に高次系のシステムを構想しようとすれば,システムがさまざまに変化するだけではなく,それ自体で活動のまとまりとなり,自己と呼べるような主体的な活動の単位が形成される場面が生じる。この場面では,自己組織化の複雑化のプロセスに不連続性が生じる。神経システムや免疫システムは,すでに不連続な飛躍を経た系だと考えられている。そこでこのシステムの構想を,できるだけ現状の研究の理論的なモデルとして活用できるように,工夫したいと思う。最初にこのシステム論の骨子を簡潔に述べ,その後現状の研究に対してどのような示唆をあたえ,どのようなアイディアを出せるかを考えてみたい。
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