特集 現代医学・生物学の仮説・学説2008
3.発生・分化・老化・再生医学
ES細胞の多能性を規定する転写因子ネットワーク
丹羽 仁史
1
Hitoshi Niwa
1
1理化学研究所発生・再生科学総合研究センター多能性幹細胞研究チーム
pp.410-411
発行日 2008年10月15日
Published Date 2008/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100537
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細胞の表現型は特定の組み合わせの遺伝子発現により規定される。このような表現型に固有の遺伝子発現は,これを制御する組織特異的転写因子と,その標的遺伝子座の受容性を規定するエピジェネティック機構により決定される。ES細胞が持つ分化多能性(pluripotency)も一つの表現型であり,組織特異的転写因子とエピジェネティック機構により規定されている1)。多能性を規定する転写因子として,Oct3/4,Sox2,Klf4が特に重要であろうことは,これらを分化細胞に導入すると,ある確率で多能性幹細胞(iPS細胞)が誘導されるという発見により,劇的な形で示された2)。
では,このような複数の転写因子はどのようにして組織特異的遺伝子発現を制御しているのだろうか。iPS細胞誘導実験はここでもう一つ重要な情報を提供してくれた。それは,導入した外来遺伝子の発現は多能性獲得後にはその維持に必要ないという興味深い結果である。これは,三つの転写因子の強制発現により誘導された内在性遺伝子発現は,自律的に安定化し維持されうるということを意味する。複数の転写因子が協調的に作用して自律的に安定な状態を形成するには,まずこれらの転写因子をコードする遺伝子の発現が誘導され,さらに相互制御によって維持されなければならない。したがって,上記実験結果は,これらの転写因子が「ネットワーク」を形成していることを如実に物語っている。
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