特集 嗅覚受容の分子メカニズム
―特集に寄せて―におい分子コーディングの理解から嗅覚中枢神経系の探索へ
森 憲作
1
Kensaku Mori
1
1東京大学大学院医学系研究科細胞分子生理学
pp.248-249
発行日 2007年8月15日
Published Date 2007/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425100041
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脳がとてつもなく複雑でかつ精巧な機能システムであるのと同様に,その一部を構成している嗅覚神経系もまた非常に複雑で精巧な機能システムである。嗅覚系の複雑さは,第一に,におい情報の担い手である「におい分子」(リガンド分子)の多様性(diverse odor molecules)にみられる。ヒトがにおいとして感じることができる化合物は,地球上で少なくとも40万種類存在する。それぞれの食べ物(たとえばイチゴ)からは,通常百種類以上ものにおい分子が飛び出てくる。
嗅覚系の複雑さと精巧さは,におい分子情報に基づいて引き起こされる行動反応の多様性(diverse behavioral responses)からも推測できる。たとえば,ヒトも動物も,食べ物のおいしそうなにおいがするとそれを摂取するが,腐ったにおいがすると食べるのを避ける。ラットやマウスは,たとえキツネに出会った経験がなくてもキツネのにおいがすると逃げ,恐怖反応を示す。嗅覚系の複雑さと精巧さは,ヒトが主観的に知覚するにおいの質の多様性(diverse olfactory percepts)や,においと様々な情動(diverse emotions)との間の強い結びつきからも推測される。
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