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生物の匂い識別能力は非常に繊細かつ鋭敏であり,空気中の1億個の分子中にわずか1個の割合で匂い分子が存在すれば知覚することができる。また,微妙に化学構造の異なる匂い分子,さらには光学異性体や立体異性体の関係にある匂い分子さえ嗅ぎ分けることが可能である。しかし,鼻の中で匂い分子を認識している実体が何であるかは,古くから議論がなされてきた。例えば20世紀前半には,匂い分子が分子固有の振動によって認識されるとする分子振動説や1,2),匂いが細胞膜に吸着すると脂質構造が変化し,細胞内に電気応答が生じるという脂質吸着説などさまざまな説が提唱された3)。最終的には,1991年L. BuckとR. Axelがラット嗅上皮から嗅覚受容体候補遺伝子を同定したことでこれらの学説に決着がみられた。同定された受容体遺伝子群は,7個の膜貫通領域をもつGタンパク質共役型受容体(GPCR)のファミリーに属するタンパク質をコードしていた4)。最近のゲノム解析の結果,嗅覚受容体遺伝子はヒトでは802個(うち偽遺伝子414個),マウスでは1391個(うち偽遺伝子354個)の存在が確認され,哺乳類のGPCRファミリーの中で最大の多重遺伝子群を形成することがわかっている5,6)。
この嗅覚受容体の発見をきっかけに,その後の嗅覚の分子生物学,特に受容体の構造的,機能的研究は目覚しく進展してきた。本稿では,匂い認識の第一ステップである匂い分子と嗅覚受容体との相互作用に注目し,1)嗅覚受容体と匂い分子との対応付け,2)匂い認識の構造基盤,3)嗅覚受容体の機能的発現に必須な分子,4)生理的条件下における嗅覚受容体の匂い応答特性に関して最新の研究を紹介する。
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