特集 低所得階層と結核
特集に寄せて
若松 栄一
1
1厚生省結核予防課
pp.185-186
発行日 1961年4月15日
Published Date 1961/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202389
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公衆衛生のいろいろの課題の中で,結核ほど"社会性"の大きい問題はないだろう。伝染病予防はその科学的,技術的水準のめざましい向上にも拘らず,60年も前に制定された法律がほとんど何らの本質的な改正を必要としないまま現在に通用している。それに比べると,結核に関する法制並びに施策の実態は時代と共にめまぐるしく変転して来た。勿論科学技術的行政として学問の進展に伴つて方法論自体に絶えざる進歩改善が加えられて来た事は当然として,それにもまして社会の変動,国民生活の向上或は社会保障のあり方などに,より多くの影響をうけ支配されて来たという事が出来よう。
日本の近代において,結核が著しいまん延を起して明治の中期において女工哀史という言葉で理解されているような労働結核の大きな問題が起つた。それは丁度イギリスにおいて産業革命の初期に見られたと同様に労働者の保護という社会政策の問題に結びつき,工場法の制定や工場附属寄宿舎の規制乃至は少年深夜業の禁止などという労働政策の展開を促した。さらに一般的な惨害に対処しては,貧困にして療養の道なき者を収容するための救療施設としての公立療養所を設置するという方法がとられ,予防対策というよりは救護対策というにふさわしいものであつた。
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