連載 何が人を殺すのか・2【最終回】
わたしが閉鎖病棟で見たもの
齋藤 美衣
pp.312-318
発行日 2024年7月15日
Published Date 2024/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689201300
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何回かわたしは個室を移動した。個室の作りはどれも全く同じだった。部屋によって壁の汚れが少し違い、部屋の温度が違う。窓の外には緑だけが広がっている。ここはいったいどんな森の中にあるのかと思う。外を歩く人も、行き交う車も建物も1つも見えなかった。
わたしの入院していた精神科の閉鎖病棟は、中央棟から渡り廊下で繋がっている西棟と呼ばれる中にあった。西棟は中央に中庭があり、それを三角形に取り囲む形になっていた。西棟は3階建てで、2階がわたしのいる閉鎖病棟、1階は緩和ケア病棟、3階は認知症病棟なのだと入院のベテランの人が教えてくれた。ああ、わたしたちはここでこの世に半分いない存在として扱われているのだなと思う。この世とあの世の間にある場所がこの西棟だと思った。西棟からは枯れかけた鉢植えが置かれた中庭と、周囲をぐるりと取り囲む木々しか見えなかった。ただの1人の外の人も、車も見えなかった。
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