連載 精神看護キーワード事典・22
リストカット、自傷行為、不安定な自己
萱間 真美
1
1聖路加看護大学・精神看護学
pp.56-59
発行日 2008年1月15日
Published Date 2008/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100473
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『クワイエットルーム~』を観に行けない
今月号の原稿は、『クワイエットルームへようこそ』という映画を観に行って、その感想を書くはずだった。この映画は大変面白いようで、ネット上のトラックバックを見てもよいコメントが並んでいる。ぜひいきたい。しかし、私は「クワイエットルーム」という単語が怖いのである。この言葉がまとっている空気が怖いのである。
この名前の部屋が、看護師として初めて勤めた病棟にあった。それもナースステーションのなかに位置していた。具合の悪い患者さんたちが隔離されるための部屋だった。隔離されていても落ち着かない人たちの声を、動きを、そして緊張に満ちた気配を、一晩中すぐ横で感じながら夜勤をしていた。そのときの気持ちは、喩えて言うなら、新生児が泣いたときに自分の授乳が少ないと責められているような感じ(読者の多くにとってはさらにわかりにくい喩えですね)である。患者さんがなかなか落ち着かないのは、攻撃的なのは、妄想的なのは、自分たちのケアが悪いのではないかとつくづく思いながら、病棟の多くの患者さんの訴えを聞き、新しい入院を受け、記録をし、ずっと気配を感じていた。あるときには患者さんが突然ナースステーションのなかで暴れ、PSWとともに殴られて、できたばかりクワイエットルームでしばらく横になって休んだこともある。そのときのPSWの涙や、泣くこともできずに呆然としていた私の気配もそこにある。
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