映画に学ぶ疾患・19
「ブラックスワン」に描かれた自傷行為
安東 由喜雄
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1熊本大学大学院生命科学研究部病態情報解析学分野
pp.872
発行日 2011年9月15日
Published Date 2011/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542102736
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ニナ(ナタリー・ポートマン)は,ニューヨークのバレエ団に所属して5年になる.ダンサーとしての技術は一流なのに,何かが足りない.いまだに一度も主役を務めるチャンスに恵まれずにいる.“何としても主役の座をゲットしたい”.それは彼女にとっても,小さい頃から一卵性双生児のように寄り添って生きてきた母にとっても,悲願であった.しかし思いもかけず彼女に千載一遇のチャンスが訪れる.これまでバレエ団の顔として長年プリマを務めてきたベスが引退するというのである.演出家のトーマスは次回の興業に“白鳥の湖”を選び,新人を起用してバレエ団の新たな顔を作りたいと言い出したのであった.ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞した映画「ブラックスワン」の話である.
“白鳥の湖”のプリマは純真無垢なホワイト・スワンと王子様を誘惑する官能的かつ邪悪なブラック・スワンの二役を一人で踊ることになる.プリマにはそれを演じ抜くだけの技術と成熟した感性が求められる.候補にはニナに加え,ブラック・スワンそのもののように自由奔放に生きているリリーが挙がる.結局,トーマスは今後の可能性も考えてニナを選択するが,彼女のような“規格品”がこの役を演じることは,自分自身の心の殻を破り,母に監視されて単調な生活を送る日常も変えなければならないことを意味していた.それに気づくことは,ニナにとって非常に危険なことになるが彼女はそのことにまだ気付いていない.この映画は,役作りに向けて取り組めば取り組むほどジレンマに陥り,ストレスからアレルギーや自傷行為に走るニナの苦悩が緊迫感をもって描かれ続けている.
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