連載 下実上虚・11
家族が自力で連れていくなんて無理なのに
西川 勝
1
1大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
pp.72-73
発行日 2006年7月1日
Published Date 2006/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689100287
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- 文献概要
ある看護師のため息
家族が自力で連れていくなんて無理なのに。
引きこもったり暴れたりしている当事者を家族が自力で連れていくなんて無理だから、ほとんど困った家族だけが精神科病院にやってきます。それなのに、病院は警察か民間の警備員を呼んで来てください、と言って帰してしまいます。途方に暮れた家族の姿をみると心が痛みます。
好きで引きこもったり暴れたりしている奴なら、警察でも暴力団でも使って、力ずくで家から引きずり出せばいいと思う。でも、この場合は、おそらくそうじゃないだろう。本人は苦しみながら、どうしようもなく暴れてしまっている。家の外には恐ろしくて出られず、家のなかでは息が詰まって、苦し紛れに拳を振り回す。ガラスが割れ、家族の顔が引きつる。物を壊し、人を傷つけるだけでは済まない。自分の拳も腫れ上がり血を流す。荒い息をおさめようにも、胸のうちにはどす黒い激情が渦巻き、ほんの少しのすき間もない。病院から無下に断られようとも、家族は助けを求めることはできた。途方に暮れているとしても、救いの可能性はゼロからプラスに向きを変えている。だが本人は、まだ孤立無援の修羅場にいる。
あなたのつぶやきに、ぼくは戸惑ってしまった。精神病院は「患者迎え」を止めてしまったのか。いつ何のために止めたのだろう。お決まりの人権問題なのか。古い話で恐縮だが、思い出話をひとつさせてください。
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