- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
陽性症状にとらわれすぎていないか
人にはさまざまな精神機能があります。「知覚」「思考」「感情」「認知」*1はその代表的なものですが、統合失調症は、これらの精神機能が少なからず障害される疾患ともいえましょう。
例えば、
➀〈知覚〉面では、実態のないものを知覚する「幻覚症状」
➁〈思考〉面では、事実に反する訂正不可能な確信である「妄想症状」、あるいは思考が全くまとまりに欠ける「支離滅裂思考」
➂〈感情〉面では、状況に応じた生き生きとした感情反応が乏しくなる「感情の鈍麻や平板化」、うつ病と同様な「抑うつ気分」「意欲の低下」「不安感」や「焦燥感」など
➃〈認知〉面では、「不自然な思考」「判断力の低下」や「病識の欠如」
などがあげられます。
これらをさらに、精神医学では➀陽性症状群、➁陰性症状群、➂感情症状群(抑うつ症状群)、➃認知機能障害症状群、と大きく4つに分けます。
➀陽性症状群は、幻覚や妄想、支離滅裂思考、精神運動興奮など健康な人には通常みられない著しく病的な症状であり、目立つ症状群ともいえます。➁陰性症状群は、情動の平板化、意欲低下による社会的引きこもり、豊かな思考力のなさなど、健康な人が通常持ち合わせている精神機能の低下した状態や症状です。陽性症状に比べれば気づかれにくい症状群でもあります。
一般に、統合失調症の初発あるいは再発・再燃などの急性期には、幻覚症状や妄想あるいは支離滅裂や興奮状態となり、いわゆる「陽性症状」が前景にみられることがあります。そしてこのような病像のときに、本人が当惑したり周囲が心配したりして医療機関を受診することが多いものです。
私は統合失調症の急性期にみられることの多い精神症状を、一過性のものと持続性のものに分けて考えております(表1)。一過性のものには、精神興奮・易刺激性・不安・焦燥感・緊張症状といったものが分類され、持続性のものには、幻覚妄想・支離滅裂・抑うつ症状・自殺念慮といったものが分類されます。問題行動としては、運動興奮、他害行為、自傷行為、自殺企図と大きなものが4つありますが、これらは認めても多くは一過性です。
ここで注意しなければならないことは、我々は一過性の症状にとらわれすぎる傾向があるということです。これらの一過性の症状が激しいという理由で、多剤大量の抗精神病薬を処方している可能性があります。さらに重要なことは、こういった一過性の症状群が著しくとも、統合失調症の重症度とは無関係であるということです。これも経験を積むと理解可能なのですが、精神科医はこういった症状が顕著であると、わかっていても多量の薬を使いすぎてしまうということがあると思われます。
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.