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長期入院がつくった溝を埋めたい
精神科の病棟では、さまざまな事情により長期入院を余儀なくされている患者さんが多くいます。当院は630床の精神科単科の病院ですが、やはり68%が3年以上の長期入院です。なかには20~30年以上の入院生活を送っている方もいます。長期入院のために、患者さんは家族の一員としての意識が薄くなり、また家族も患者さんのいない生活に慣れてしまっています。加えて患者さんの高齢化に伴い、家族もまた高齢化し、身体面や交通面からも外泊・面会さらには連絡までもが遠のいていきます。そのような状況の中で、どうすれば患者さんと家族の絆をより深めることができるのかを、筆者はスタッフと共に模索してきました。
携帯電話、インターネットが普及しメールが飛び交っている世の中で、「なぜ、今、手紙なのか?」と問われることもあります。しかし、病棟には社会からかけ離れて携帯電話の使い方も知らない、パソコンも触れたことがない人たちが多く入院しています。
電話は相手の時間を一方的に独占してしまうためにかけにくい面があります。患者さんからの電話を迷惑に思うのか、常に留守番電話にしてあったり、極端な例では電話番号を変えたり、病棟スタッフに「電話させないでください」と苦情が来ることもありました。
手紙は電話と違い、読む時間や書く時間を限定しません。また文字に残り、好きなときに何度も読み返し、大切に保管することができます。手紙を書く楽しみや返事が来たときの喜びを感じてもらうことで、手紙により家族が支えてくれているという思いをもつことができれば、少しでも孤独感が和らぐのではないか――そう考え、2001年6月より患者さんと共に家族へ手紙「シンシアレター」を出す試みを始めたのです。
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