特集 終末期にできること
特集2
思想としての終末期リハビリテーション
大田 仁史
1
1茨城県立医療大学付属病院
pp.968-972
発行日 2000年12月15日
Published Date 2000/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688902519
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母が伝えたこと
父親は1年4か月の植物状態のまま意識を回復することなく死亡した.3日の間に2度の脳梗塞の発作に襲われた.私はその時々に居合わせていた.医師としてはまれな経験だと思う.2度目の発作のとき,徐脳硬直*を起こし,両眼を吊り上げ,舌根沈下のため呼吸困難に苦しむ(ように見える)父親のあごに手をあて舌根を持ち上げた.父親の呼吸は楽になった.手を離すとまた呼吸困難に陥る.何回か同じ行為を繰り返しながら,私は妙に冷静に父親の予後を考えていた.救命しえたとしても父親は植物状態になるだろう.そして,家族が介護に苦労をするに違いない.「何をしているのか」という母親に促されて私は救急車を呼んだ.
父親の療養は私の勤める病院で行なわれた.介護は主として母親と姉が当たった.病院という恵まれた環境であったが,家族には厳しい毎日が続いた.介護が長引くにつれ次第に介護者側の希望は小さくなり,ただただ本人が人間らしく扱われることが話題になっていった.ことに保清がもっとも大きい関心事であった.なにせ徐脳硬直を起こしたくらいだから肢位は不自然だし関節の可動域も狭められがちであった.母親は,小声で何事かをつぶやきながら,毎日父親の口腔から足の指の間まで手順よく丁寧に清拭を続けていた.
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