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10年先に思いを馳せて
「痴呆」から「認知症」に名称が変わって10年目になります。この四半世紀の間に、寝たきりにさせられている高齢者が著しく減少し、苦痛に満ちた顔をしている認知症の人を見ることも随分と少なくなりました。現場から少し離れたところからみると、政策とケアが一体化して物事が動くときのパワーが非常によく見えます。そして現在、本格的に「大介護時代」に打って出る準備が急ピッチで進められています。この「大介護時代」という言葉は、その名づけ親といわれる樋口惠子氏の説明によると、「すべての人が人生のどこかにケアを組み込んでいく時代で、地域だけでなく企業をはじめ多くの協力が必要となる時代*1」というものですが、超高齢社会が社会的成熟に向かって拓いていく先にある将来像がイメージしやすい言葉だと思います。
2013〜2014年にかけて厚生労働省は「地域包括ケアシステム」構想*2と「今後の認知症施策の方向性について*3」を発表しました。また、2014年4月の診療報酬改定を経て6月には「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保推進法)」の制定がありました。こうした幾重の法整備を経て、来る2025年の時代に相応しいケアを、地域をベースに重層的かつ統合的に展開しようということなのでしょう。その大きな柱の1つが地域包括ケア(Community-based integrated care)づくりで、医療、看護、介護、リハビリテーション、在宅など、健康と生活に関わる専門職の制度的サービス/ケアを統合して提供する方法をシステムとして築くことです*4。「Integrate」の本来の意味は、そこにある保健医療、福祉サービスの部分、要素に、もし格差が生じているというのであれば、それをなくして公正で公平なものに変えていくことです。しかし、新しいシステムが構築されれば「統合」に関わる不都合な問題は解決するというものでもありません。ふり返ると、ずっと昔から保健師やソーシャルワーカー、訪問看護師などの専門職に期待されてきた保健、医療、福祉機関・施設ケアの資源を在宅ケアに統合する活動がなかなか思うように進みませんでした。現実に彼らを苦しめてきたのには、活動を統合的に進めるための制度が整えられてこなかったことが大きいと思いますが、この他に、それを強く求める政治・文化の成熟という時間との関係があったのだろうと思います。では今、その時が来たのかといえば、それは私にわかることではありません。しかし、客観的にみて、大介護時代を乗り切る責任を背負う為政者の本気度や一所懸命さが伝わってきます。私たちもこの10年間を在宅ケアと訪問看護の新時代を拓くための時代と位置づけ、今以上にパワーを全開にして国や地域の「事」を動かす一員としてやってみせようではありませんか。
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