連載 精神科医の家族論・8
夫と妻―島尾敏雄・ミホ夫妻の場合
服部 祥子
pp.968-971
発行日 2009年11月15日
Published Date 2009/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101477
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山アラシのジレンマ~夫婦の長いつきあいの心づもりに
S子さんは有名な賢夫人だった。夫のYさんは商社マンで,国内外の出張が頻繁であったから家庭のことはほとんど妻まかせで,老いた両親の介護,子どもたちの育児・受験もS子さんがひとりで成し遂げた。ニューヨーク駐在の際のみYさんは英語のできるS子さんを伴って行き,そこでもS子さんの社交上手と料理の腕前は夫の出世に貢献していると評判だった。その後Yさんは定年を迎え,退職金3000万円余が支給されることになった。その時S子さんは「一度でいいから3000万円という現金をこの手に持ってみたい」と頼み,Yさんも妻への感謝もあって,その願いを受け入れた。
退職の日,S子さんは手料理にワインを用意して夫の帰りを待ち,帰ってきた夫は退職金の包みをS子さんに渡した。二人はその重さを代わる代わる手に持って味わいつつ盃を重ね,長い年月の歩みをそれぞれ感慨無量の思いで味わった。
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