連載 ホワイエだより・17
妻は夫を、夫は妻を
岩石 真知子
1
1稲毛ホワイエ
pp.654-655
発行日 1992年8月10日
Published Date 1992/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900548
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壺坂霊験記
“妻は夫をいたわりつ,夫は妻にしたいつつ……”浄瑠璃「壼坂霊験記」の一節です。Kさんのことを考える時,何故か子供の頃,母に連れられて見た,この人形浄瑠璃の一節が思い出されるのです。
盲目の按摩沢市とその妻お里は沢市の眼を治したい一心で,壼坂の観音様に願かけをします。そしてその満願の日,沢市は妻のお里に手をひかれ観音様へ参るのです。深く険しい山道,夫に手を差しのべる妻,その手をしっかりと握る夫,妻は夫をいたわりつ〜,夫は妻にしたいつつ〜と義太夫がさわりの部分を語るところです。盲目の悲しさ,沢市は足をすべらせ崖下へ,必死に夫を助けようとするお里,その時不思議にも沢市の眼が開き,2人は観音様のおかげと喜び合い涙にむせびます。他愛のないお話と言ってしまえばそれまでですが,子供心にいたく感激し,夫は妻にしたいつつ…というのは慕うなのか,従うなのかなと考えたりしたものでした。
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