連載 精神科医の家族論・10
夫と妻―「金婚式」クラスの夫婦
服部 祥子
pp.66-69
発行日 2010年1月15日
Published Date 2010/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101521
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2つの老年論 ~キケローとE. M. フォースター
『老年について』という同名タイトルの著作が2つある。古代ローマの哲学者・政治家のキケロー(前106~前43)と20世紀英国の小説家・評論家のE. M. フォースター(1879~1970)によるものである。2000年前,キケローは死の接近について,「死は若い者にも老いた者にも等しく訪れるもので,老年ばかりが問題とされるべきではない」と述べた上で,「果実も未熟であれば無理やり木からもぎ離されねばならないが,よく熟した実は自分から落ちる,成熟をして死を迎えることは長い航海を終えて港に入るのに似ていて喜ばしいことだ。自然の掟がもたらすものは一つとして災いになるわけがない,死はすべての終わりではなく英知は次の世代に伝達される」と力強く言及している。
ところが一挙に20世紀に飛んで,78歳の老作家フォースターは,キケローの「英知は次の世代に伝達される」という考えに懐疑的だ。「老人はたいてい愚かなものだが,賢い場合でもその英知を伝えることはできない。語るのは老人の口で,聞くのは若者の耳なのだから……」とフォースターは,現代は世代間の断絶が大きいことを皮肉と揶揄をこめて語る。
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