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はじめに
食事療法とは「病態の進展を防ぐ食べ方」です。外来維持透析専門施設である当院は,透析患者の高齢化を背景に,介護保険の施行にともなって訪問看護,訪問介護,居宅介護支援事業を立ち上げました。その一環として私も「居宅療養管理指導事業所」として訪問栄養食事指導を実施することになりました。外来と在宅の2方向から栄養食事指導に携わるなかで,次第に「病気があるから食事療法をする」のではなく,「病態の進展がその人の望む生き方を妨害する場合には,食事療法も在宅支援の一手段になりうる」と考えるようになりました。しかし「指導=何もかも制限する」というイメージが強いのか,在宅療養中の高齢者に対する食事療法はQOL(quality of life=生活の質,人生の質)の観点から敬遠されがちなのが現状です。
食事によって在宅療養生活は大きく変化します。食生活が充実すると身体的にも精神的にも自立したり,生活意欲や自信が湧いたり,社会参加が可能になったりすることを,慢性疾患を持つ多くの療養者さんから教えられました。
ところが,心の赴くままの食生活を続けたことで病態が悪化し,要介護状態や寝たきりになる例もあります。また逆に,食事療法の実施によって介護負担が増大したり,食を楽しむことを諦めたり,自分の存在価値を低めて消極的に生きている例もあります。毎日の食事が苦痛を生み出すなんて,療養者や家族にとっても,在宅支援者側にとっても大変ショックなことだと思いませんか? 食事はお腹や栄養だけでなく,心も満たすものです。在宅介護支援が人生終盤の過ごし方を援助することだとすれば,そこに占める食事の役割は非常に大きいと思います。だからこそ,在宅支援における栄養食事指導では,その人にとってのQOLが向上するような食事療法を示し,導くことが重要な視点になってくるのです。
本稿では食と治療の関わりが強い慢性疾患について,一般的な食事療法を概説し,訪問栄養士の経験から食改善支援のコツを述べたいと思います。
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