連載 シネ・プロフィル・9
九月の想い
片場 嘉明
1
1厚生中央病院・外科
pp.653
発行日 2001年9月10日
Published Date 2001/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902331
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九月になると,「September Song」が主題曲の『旅愁』を想い出す。このテーマ曲が流れるシーンとともに,ピアニストに扮したジョーン・フォンティーンが,あの『逢びき』で流れたラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を弾く場面は,作品全編の綾となり,いまも脳裏に焼き付いている。原題は『September Affair(九月のできごと)』だが,"Affair"にはもう少し生々しい意味があった。
ローマ発の旅客機に搭乗したピアニストは,ジョセフ・コットン扮するエンジニアと偶然隣り合わせる。エンジン不調のため,ナポリ空港に不時着した時間を利用し,2人は観光に出かける。地中海を見下ろす小さなリストランテで食事のあと,彼女は戦時中アメリカ兵が置いていったSPレコードの中から,1枚を抜き出す。ウォルター・ヒューストンが切々と唄う「September Song」が古い朝顔型蓄音機から流れてくる。うっとりとして聴く彼女に,迫る時間を知らせ,急いで空港に戻った2人は,轟音をあげ離陸していく機影を,ただ呆然と見上げるしかなかった。
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