特別論文
身体的ケアの治療的意味―看護の役割の理論的根拠
出口 禎子
1
1東京慈恵会医科大学医学部看護学科
pp.776-780
発行日 1999年10月10日
Published Date 1999/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900911
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はじめに
看護においては,日常生活行動の援助場面それ自体が患者とのコミュニケーションの場であることは,多くの臨床看護婦がすでに経験を通して学習していることである.
しかし,筆者がある大学病院で12年間の臨床経験を経た後,大学院へ進学し,学位論文1)を作成するために入っていった精神科病棟には,著しい退行状態を示し,言語的なコミュニケーションがまったく成り立たないばかりでなく,どんな方法をもってしても関わることができないのではないか,と絶望的な気持ちにさせられるほど自閉的な長期療養患者たちがいた.こうした患者たちと接触する手だてを児つけることはきわめて難しく,徐々に看護者の関わりも少なくなっていた.筆者はこのような患者たちを対象に,主に清潔の援助を行なっていくうちに,彼らがほんのわずかな反応を見せる瞬間があるのに気がついた.その結果,彼らが決して関わりを拒否しているのではないこと,引きこもりが強く,言語的な手段では関わりのもてない患者であっても,身体的ケアを通しての関わりは可能であることを知るようになった.そしてさらにその援助こそが,相互交流を回復する手だてになり得ること,すなわち治療となりうることを確信するようになった.やがて治療的関係に関する文献検討をしていくうちに,セシュエー(Sechehaye, M. A.)2)の「象徴的実現」という概念に出会い,これこそが自分の体験を理論的に説明してくれるものと思われたのである.
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