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1 .はじめに
医療技術が進歩し、延命治療が可能になった現代において、治療を選択する意思決定は困難を増している。高齢化が進んでいるわが国では特に、高齢者の透析導入・中止をはじめ、胃瘻造設による延命は適切かなどという問題がよく話題に上る。このような意思決定場面に直面させられたとき、患者・家族はもちろん、医療者ですら、そこに明確な答えを示すことは不可能である。医療上の意思決定に関しては、近年重要視されている自己決定権の尊重に基づき、最終的な意思決定は患者とその家族の意向に任せられる。一方で、医療上の意思決定は、不確実性を伴うものであり、患者とその家族の判断だけでは困難なことが多く、医療者と患者とその家族が共同で行うことが望ましいと指摘されている1。先述したとおり、医療現場における意思決定は、生命予後を左右するものや、患者とその家族の後の人生に大きく影響することが多く、医療者は、非常に重要な、他者の意思決定に深く関与しなくてはならない。そのため、医療現場のさまざまな事象において、医療者は高い倫理観をもち対応することが強く求められている。
厚生労働省2は2011年に、看護基礎教育の充実に関する報告書の中で、基礎的な看護実践能力の中に「倫理的な看護実践の提供」という指針を示している。日本看護協会3も2000年のICN看護師の倫理綱領に照らし、2003年に「看護者の倫理綱領」を示し、その普及に努めている。それに応えるべくほとんどの養成機関が、倫理を基礎教育科目として教授している。水澤4の1,746名の臨床看護師を対象とした調査によると、1968年の指定規則改正以降看護倫理という科目名称がなくなった後も、67.6%の看護師が看護基礎教育機関で倫理を学んだ経験があると答えていることから、倫理教育の重要性は認識されているといえる。一方で、倫理に関する知識の程度に関しては、91.1%の看護師が「全く知識がない」「あまり知識がない」と答えている4ことから、看護基礎教育における倫理教育が十分な成果を得ていないことも推測される。さらに鈴木5は、一つの教育機関において倫理的態度を学生の中に育てていくにあたっては、教育する側が、どのような考えで教育を行うのか、教員間の十分な議論から始める必要があるとの指摘もしている。効果的な倫理教育を行うためのストラテジーを確立するために、看護倫理教育を再考する必要があるのではないだろうか。
白浜6は「医療職に必要な倫理観や倫理的感受性」とは、「日常の臨床の現場で生じている倫理的な問題を認識し、分析し、対応していく能力」としている。また、Fry7は看護師にとって倫理を学ぶことは、看護師が道徳的であるための能力を養うためのものでもあると述べている。Lützenら8は1994年にmoral sensitivity test(以下、MST)という尺度を開発し、看護師の道徳的感受性が測定できるようにした。それを、中村ら9が日本語版に開発し、看護師や看護学生を対象に調査されている。このように倫理的感受性と道徳的感受性が、倫理観を育成するためのキーワードとなっているが、これら二つの概念を明確に区別した研究はない。
本稿の目的は、道徳的感受性と倫理的感受性の意味について、先行文献を基に検討し、看護師に求められる倫理的能力を育成するために、看護基礎教育ではどのような内容が必要なのか、また、これらを高めていくことはできるのか、ということについて、考究することとする。
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