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はじめに
20世紀後半以降のわが国では,生活習慣病に代表されるように患者の生活習慣(食事,運動,喫煙など)が病気の原因となることが多い。高血圧や糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病と呼ばれる病気は症状に乏しく,患者が病気に罹患していることに気が付かないことが多い。したがって,患者の危機意識は低いことが多く,治療へのアドヒアランスが悪くなりがちである。実際,高血圧に対する降圧剤の服薬状況をみた場合,内服指示が順守されていない場合が多いといわれている。しかし,長期的な視点でみると,それらは心筋梗塞,脳血管障害などを引き起こす危険因子であり,生活習慣の改善や服薬を行なって生活習慣病を管理していくことは重要である。
医療現場で危機意識が低く,治療に積極的でない患者を目の前にしたときにはどのように対応すべきなのか? どうすれば行動変容につながるのだろうか?
個人のレベルに焦点を当ててみると,健康信念モデル,行動変容ステージモデル,計画的行動理論,予防行動採用プロセスモデルなど,行動変容のさまざまな理論が存在する。モデルで分析することのメリットは,行動意思(やる気)を阻害している因子は何か? 患者はどの段階でつまずいているのか? という患者のステージを把握することにつながることで,介入すべきポイントが明確になる点にある。
喫煙を例にして話を進める。患者がたばこをやめることのできない原因はどこにあるのか? たばこを吸い始めた動機は何か? など患者のステージを把握するためには,適切な患者-医療者間のコミュニケーションに基づく相互の意思疎通と相手の考えに対する十分な理解が必要となる。つまり行動変容のさまざまなモデルを利用するためには,その前提として適切なコミュニケーションが必須となる。行動変容は個人に目を向けるのと同様に,世帯,地域,国家レベル,つまり個人を超えて,社会に対しても介入することが必要になることも理解しなければならない。
この章ではまず,行動変容における社会的要因の重要性について確認し,代表的な行動変容モデルとポライトネス・ストラテジーの適用法を解説した。最後に,失敗が生じたときのコミュニケーション術について述べる。
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