連載 医学のエコーグラフィー・3
「幻影肢」
橋本 一径
pp.560-561
発行日 2009年7月10日
Published Date 2009/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101507
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事故や外科手術で手や足を切断された人が,すでにないはずの手足の感覚を感じ,時には激しい痛みすら覚える。幻影肢と呼ばれる症状である。古くは16世紀フランスの著名な外科医アンブロワーズ・パレの著作にも,似たような症状についての記述を見出すことができるが,それに「幻影肢」という呼称を与えたのは,アメリカの神経科医サイラス・ウィア・ミッチェル(1829-1914)である。1861年に開戦した南北戦争に外科医として従軍したミッチェルは,負傷兵たちの四肢切断手術に数多く立ち会った経験をもとに,1871年,一般向けの月刊誌『リッピンコッツ・マガジン』に,「幻影肢」と題された文章を寄せたのである。
手足などを切断する手術は,古代エジプト文明においてすでに実践されていたことが知られており,ヒポクラテスにも記載が見られるように,人類が古来より実践してきた,いわば「原始的」な医療行為のひとつである。しかし近代的な西洋医学が,病気や痛みの原因とみられる部位を特定し,その部位を取り除くことを目的としていたとすれば,四肢切断手術は,そのような西洋医学の理想に適うものであったとも言える。とりわけ戦場においては,負傷した兵士たちの手っ取り早い救命法として,切断手術が数多く実施されてきた。南北戦争中にミッチェルが医師を務めた,フィラデルフィアのサウス・ストリート・ホスピタルは,そのような手術が頻繁になされたことから,「スタンプ(stump=切り株。転じて切断された手足の付け根のこと)・ホスピタル」とあだ名されたという。
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