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はじめに
看護師の働き方が大きく変わるときがきている。本特集に組まれているように,看護界においても,ワーク・ライフ・バランス(以下,WLB)を実現し,そのための多様な勤務形態を整備することは,優秀な人材に対して看護職が魅力的な職業であり,ライフステージの変化に合わせて働き続けることのできる職場であることをアピールするためにも,大変重要である。
一般に専門職といえども,長時間労働や柔軟性に乏しい就業環境では,能力を活かして意欲をもって働き続けることは難しい。ライフステージに応じて,希望するWLBも変化する。仕事中心に毎日を過ごし,夜勤もいとわず,キャリアアップのために自己啓発しいきいきと働いている人もいれば,職場では看護師,家に帰れば母親役割と妻役割をとることで充実した日々を過ごしている人もいる。みんなが一律の働き方しかできないのであれば,その職場を去るしかなくなるし,看護ケアにもバリエーションがなくなる。1人ひとり,その時々によってあり様が異なるWLBを大事にして,多様性を尊重した働き方のできる職場をつくることが,結局のところ,生産性の向上,すなわち患者によいアウトカムをもたらすことにつながる。
本稿では,京都大学で今年2月より導入された育児短時間制度,および自己啓発などのための休業制度を紹介するとともに,後半ではダイバーシティ・マネジメントの観点から看護現場において,多様性を尊重した働き方を受け入れることの重要性について述べる。
結論からいえば,今回の特集テーマであるWLB実現のための多様な勤務形態促進の観点では,京都大学医学部附属病院(以下,当院)は目新しい取り組みはしていない。まずは現在あるしくみを使って多様性のある働き方をすすめていきたいと考えている。
なぜなら,人間本来の多様性を理解し,患者や家族など看護サービスの利用者の問題を想像し,共有し,共感するためには,看護者側にも多様性が求められる。夜勤ができて,フルタイムで働き,予定外の時間外勤務にもいつでも対応できる人だけの均一な集団では,組織として脆弱だからである。
逼迫した病院財政や現状の診療報酬制度の枠組みのなかで,多様性のある働き方を実現するには困難なことが多い。しかし,できることからでも,多様性を尊重した働き方を受け入れる組織風土を着実につくることが,看護サービスの質向上のために重要であると考えている。
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