連載 彷徨い人の狂想曲[18]
紫陽花
辻内 優子
1
1心療内科・小児科
pp.526-529
発行日 2004年6月10日
Published Date 2004/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100503
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今日も雨がじとじとと降っている。テレビのニュースで梅雨入りしたことが伝えられていた。マンションのコンクリートの壁は,ひんやりと水気を帯び,体中に湿気がまとわりつくようだった。こんな日は外に出ないでもすむ。もう何日も雨が続き,家に閉じ込められているが,久美子にはそれが却ってほっとするのであった。さんざんぐずって,ようやく寝入った隆太郎の顔を見下ろす。顔面が真っ赤にただれ,ミルクやよだれのつく口のまわりは特にひどい。両耳の付け根は無残にも裂け,じくじくとした汁が出ている。痒みのため,無意識に顔をこすったり引っ掻いたりするので,両手にミトンを被せてあるが,それがまたうっとうしいらしく体をよじる。
眠気が襲ってくると体温が上がるせいか,痒みがひどくなり,不機嫌は最高潮に達する。抱こうがあやそうが,ウトウトとしては泣きわめき,完全に寝入るまでは毎回心身ともに疲労困憊するのであった。
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