連載 彷徨い人の狂想曲[21]
虚構の果実
辻内 優子
1
1心療内科・小児科
pp.806-809
発行日 2004年9月10日
Published Date 2004/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100759
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何やら診察室の中がざわついている。君子は気が気ではない。今まで病気らしい病気をしたことのない娘の里佳子が,突然腹部の激痛を訴えて救急車で運ばれたのだ。一体,何の病気なのだろう。いつも仕事で忙しく,中学生になった里佳子をほとんど構ってやっていない。小さい頃から独りに慣れているせいか,放っておいても食事も身の回りのことも何でも自分でできる子どもになっている。それをいいことに,仕事に没頭し,里佳子のことはいつも二の次にしていた。何か大変な病気だったりしたら,仕事をどうしようか。せっかく,大事なプロジェクトを任されているのに。
「遠藤さん,どうぞお入りください」
神妙な顔つきの看護師に呼ばれて,診察室に入った。50代半ばの医師が机の前に座っており,30代前半の若い医師が横に立っている。
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