連載 彷徨い人の狂想曲[15]
古家
辻内 優子
pp.270-273
発行日 2004年3月10日
Published Date 2004/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100467
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志津子は,玄関からガタガタする音で目を覚ました。時計を見ると深夜0時前だ。気だるい体を起こし,寝巻きの上からガウンを羽織って階下に下りていった。
「お帰りなさい。お食事は?」
「うん,もらおうかな」
食卓の上に並べた夫の食事はすでに冷え切っており,ラップをかけて電子レンジに入れる。味噌汁は鍋ごと火にかけた。その間に冷蔵庫から缶ビールを出してコップにつぐ。夫はネクタイをゆるめ,どっかりと椅子に座って夕刊を広げる。新聞紙の向こうに隠れた顔はいつも通り疲れきっていて,何を話しかけてもきっと上の空に違いない。しかし,今日は何が何でも相談しなければならないことがあった。
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