連載 彷徨い人の狂想曲[13]
すかんぼ
辻内 優子
pp.90-93
発行日 2004年1月10日
Published Date 2004/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686100427
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眠ることを知らない池袋の街が,今日は特別騒がしい。道端の店から大音響で漏れてくる音楽とも言えない騒音が重なり合って,通行人の脳神経を麻痺させていく。体の内に溜まった膿をどこに吐き出してよいのかわからずウロウロと徘徊する若者たち,少女たちを食い物にして闇の世界を生き抜く者,麻薬という悪魔に心を売り渡してしまった者,それぞれが,なぜこの街を歩いているのか本当の理由もわからずうごめいている。
佐々木次郎もまた,そのうちの一人だった。なけなしの金で買ったカップ酒で手を温めながら,今日のねぐらを探してうろついていた。通りすがりの者は,その鼻をつく臭いにあからさまに顔を歪め,少しでも体が触れないように避けて通った。なかには,「汚ねーな! 引っ込んでろ」と唾を吐く者もいる。
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