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ニューヨークでナースをしていて,いままで日本人の患者に出会ったことはないが,先日,英語を話せない,日本語を話す韓国人Aさんに出会った。留学中の娘さんを釜山から訪ねて来たのだが,ニューヨーク到着翌日,転倒し,大たい骨を骨折してしまったのである。観血的整復固定術を受け,10日間入院した。これはこの疾患では例外的な長さだ。
入院10日目,月曜日の朝,担当のフィジシャン・アシスタント(PA)から「今日中には退院してほしい,本来なら金曜日には退院すべきところ,保険も許したので,好意で今日まで入院できた」旨,告げられた。Aさんは,自分の家ならまだしも,ホテルに退院するのは“不安”だから,もう少し歩けるようになるまで病院にいさせてほしいとPAにもケースワーカーにも訴えた(手術をした主治医どころか研修医が来ることもなかった)。しかし,「骨折後,元のように歩けるようになるには,数か月かかる。あと2,3日入院したからといって何も変わらない。今,私たちのすべきことはすべてやった。“不安”というが,何がどう不安なのか,具体的に言えないのなら,私たちとしてもできることは何もない」と厳しい言葉が返ってくるだけで,Aさんの漠然とした“不安感”は受け入れられることはなかった。Aさんはさらに,今日中にホテルを予約するから,せめて翌朝まで入院できないかと訴えたが,それも却下された。私にはAさんの訴えはもっともに思えたが,私の働く病棟にいても何もすることがないのも事実だった。私は一応,ケースワーカーに,保険は問題ないのだし,リハビリ病棟への転床はできないだろうかと聞いてみたが,「必要なし。杖でも歩行器でも何でもあげていいから,帰ってもらって」という冷たい返事だった。奇妙なことに,いざ退院する段には,親切丁寧に「歩くのは大変でしょうから」と車椅子が用意された。しかし,Aさんは意地で歩行器を使って歩いて退院していった。
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