連載 スクラブナース4年生・38
ドラマティックなシーンを作る“遠い”家族
鈴木 美穂
pp.567
発行日 2008年7月10日
Published Date 2008/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101243
- 販売していません
- 文献概要
死にゆく患者をケアしているときは,たとえDNR(Do Not Resuscitate)であっても,結構気が張っているものである。そんな緊張状態のなかで,さらなる精神的負担となるのが,あと1,2日で亡くなろうというときに突然現れる“遠い”家族である。“遠い”とは必ずしも血縁関係ではなく,ほとんどお見舞いに来ず,ベッドサイドにもいなかったという意味である。“近い”家族は患者の長い経過をずっとそばで見ている。例えば最近,造血幹細胞移植後のGVHD(移植片対宿主病)で亡くなった患者の場合では,泊り込みで看病に当たってくれた家族には,負担どころかナースは助けられることのほうが多かった。
何しろ,GVHDの消化管症状はひっきりなしの生臭い血便の下痢で,患者は意識のあるうちは,体力が減退してフラフラになりながらも,最後まで直腸チューブの挿入を拒み,ポータブルトイレを使おうとするので,家族の協力なしでは転倒予防や陰部皮膚の保全も困難なのだ。皮膚症状が強いと,陰部どころか全身の表皮がポロポロとはがれ落ち,仕舞いに皮膚は水に浸したスポンジのようになることもある。肝症状も含め,GVHDはかなりの疼痛を伴うので,患者にとってベッドサイドの家族は何よりの心の支えだと思う。モルヒネの持続点滴などによる疼痛コントロールはもちろん,ステロイド,免疫抑制剤,免疫グロブリン,ATG,化学療法などの懸命の治療をするが,経過を長引かせるだけで,悪くなっていくのが誰の目にも明らかなのがまたつらい。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.