特集 慢性看護学における事例研究法の進展
慢性看護実践における事例研究の可能性
河口 てる子
1
,
黒江 ゆり子
2
,
本庄 恵子
3
1聖隷クリストファー大学看護学部
2関西看護医療大学看護学部
3日本赤十字看護大学大学院看護学研究科
pp.546-550
発行日 2023年12月15日
Published Date 2023/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681202152
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事例研究の広がりには何が必要か
河口てる子 聖隷クリストファー大学看護学部教授
高齢化による慢性疾患,慢性状態の増加,複雑化は,治療やケアが解決不可能にまでになっている。看護界では,その複雑さをひもとき,ケアの効果,行為の指針等を得ようとするものの,調査や実験といった既存の研究方法では,解決への手がかりどころか,状況の把握さえ見出すことが困難である。
そこで注目されるようになってきたのが,事例研究法である。慢性疾患や難病,複数の疾患をもつ患者,慢性疾患だけでなく家庭環境等にも問題があるケース,高齢者のケアと介護など,発達段階,性や年齢,身体・心理・精神,在宅・施設など様々な領域にまたがる慢性看護学では,コアとなる現象や問題を見出すのは簡単ではない。そのような複雑かつ多様な状態の中で,解決策となるケアを検討するためには,まず優れた看護実践を詳細に記述し,対象者の病状や心理,看護師のケアを描き出す必要がある。調査研究やカテゴリー化をめざす質的研究では,共通の問題は見出せるものの,現実の実践では平均値の患者像でしかなく,現実感の伴わない,架空のケースのように感じるものが多い。見えにくい,複雑で多様な病状と心理,治療とケア,自己管理と介護は,少数例の質的研究が相応しく,その中でも事例研究こそ対象者の心象やケアの現象を描き出し,取り出せる。事例を記述し,実践記録をもとに討議し,その中で得られる洞察や実践知,患者行動や実践のパターン,概念や理論の仮説的気づきは,事例を検討する中でこそ,最も生まれ得やすい。
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