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はじめに
超高齢社会に突入した現在では,医療・保健・看護・介護において,高齢者の慢性疾患,慢性状態の健康問題が解決困難な事象として大きな関心事となっている。慢性疾患や慢性状態のケアは複雑さが増大し,かつてのように単純な治療やケアでは解決不可能になっている。看護界では,その複雑さをひもとき,看護行為の概念やケアの効果,行為の指針などを得ようとするものの,調査や実験といった既存の研究方法では,解決への手がかりどころか,状況の把握さえ見いだせない状態になっている。
複雑な患者の状態だけでなく,そもそも看護は医学に比較して,ケアの効果がデータでは見えにくい。筆者も専門の患者教育領域で教育効果のエビデンスを示そうと,数多くの介入研究を試みたが,シンプルに効果があると示すことが困難であった。また,臨床介入研究を行なうにしても,研究計画は複雑で,プロトコールは患者の意欲や状況など,個別性に対応しなければ効果にならないため,複雑でわかりにくい。その研究結果に関しても,患者と看護師の実感としてのケアの効果とは大きく異なり,検査データに及ぼす効果は小さく,効果の強調が困難であった。
筆者が考えるに,看護のケアの効果は,検査データだけでなく,患者の気分や意欲,安全・安楽や家族への好影響まで,多角的,総合的に現われるもので,検査データだけで測定することそのものが不適切であるのかもしれない。
このように,医学と同じ方法,同じ基準でケアの効果を追究しても,看護ケアの核心を研究している気分にはなれず,いらだちが増すばかりで,これらの方法では良質なケアの探索は実現できないと思われる。もちろん,医学と同様なケアのエビデンス研究は,今後も必要不可欠であるが,それだけでは看護の特質を活かせないと思われる。
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