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はじめに
これまでの看護研究の方法論は,大別すると質的研究と量的研究に分かれ(Polit, & Beck, 2016),各々の研究の目的に応じていずれかを選択し,研究を進めることがほとんどであった。質的研究,量的研究には,それぞれ哲学的背景や基盤となる理論的前提,および研究の枠組みや考え方,そして物の見方(視点)があり,各々が研究方法を発展させてきた。
ところが,今日の看護・医療を取り巻く環境は一層複雑化し,看護の利用者の生活背景も多様性を増している。そのため,これまでの質,あるいは量といった一辺倒な物の見方だけでは,そこに生じる事象を理解することに限界が生じているのではないだろうか。
混合研究法は,1980年代の終わり頃から本格的な論議が始まり(抱井,2015),質的研究学派と量的研究学派の激しいパラダイム論争ののち,両者を相互に補完する研究方法として発展してきた。混合研究法は,質的研究と量的研究の両者を1つの研究の中に組み合わせ,両者を統合する新しいパラダイム(Tashakkori, & Teddlie, 2010)として注目されている。
もともと質的研究と量的研究は,「帰納」と「演繹」という大きな方法上の違いがある。研究者がデータを内側から(emic)みるのか,外側から客観的に(etic)みるのか,データと向かい合うときの哲学的視点が異なる。しかしながら,混合研究法は質的研究,量的研究,そして両者の統合という3つの研究段階を経ることによって,どちらか1つのみの研究方法では得ることのできない,「全体としての理解」や「深い洞察」を生むことができる。混合研究法は,単に2つの種類の研究を別々に行なうことではないため,研究計画やデータ収集が複雑化しやすく,分析やデータの統合には時間もかかる。看護研究に特化した混合研究法を扱う書籍は少ないため,混合研究法を深く学ぼうとする場合,日本混合研究法学会が主催するワークショップやコロキウム(日本混合研究法学会,2021),国際混合研究法学会のwebinar(国際混合研究法学会,2021)の視聴などに限られている。
抱井らが行なった国内看護系大学を対象とした混合研究法に関する教育の調査(研究代表者:抱井尚子,2020)(筆者分担研究者)において,教員・看護系大学院生の回答者のうち,混合研究法の講義等を受講した経験のある者は約26%であることがわかっている。この結果からも,看護系大学,および大学院において混合研究法について学習する機会を,さらに増やす必要があると考えている。
このような背景に基づき,筆者は,看護学研究者が混合研究法を理解し,自身の研究に活用できるようにすることを目的に,支援ツールの開発を2015年から進めてきた。本稿ではその経過について概説する。
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