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はじめに
混合研究法は,質的研究と量的研究の両者を相互補完し,統合・融合する方法として発展してきた研究パラダイムのことであり(Tashakkori & Teddlie, 2003 ; Creswell, 2015),研究課題や,ある事象のよりよい理解に優れ,新たな知見を生み出す研究法の一つである。質的研究か量的研究かという二者対立的なものではなく,両者を適切に統合する方法として,社会科学,行動科学,健康科学などさまざまな研究領域において近年活用されている。
筆者は,これまでは量的研究手法を用いる研究を比較的多く経験していたが,その中にもケーススタディを取り入れて,特徴的な事例を描写するといった方法を用いてきた。最近では,これとは異なった混合研究法による研究デザインを採用し,それによるデータ収集や分析を計画的に行なうようになった。その背景には,量的研究で設定した研究仮説の検証のために統計学的分析や検定を行なうだけでは,両群に差が生じた理由を理解することが困難であった経験がある。
質的データと量的データの両者を同じ重みでデータとして計画的に収集し,両データの結果を統合して一つの研究目的を達成するという研究方法は,これまで一つの研究目的を達成するために一つの方法論しか選択してこなかった筆者にとっては,方法論を考える上での発想の転換が必要であった。そもそも質的研究では,現象を“記述して理解”することが中心的な目的であり,量的研究では相関関係,因果関係や有効性などの“検証”が目的である。この明らかに目的の異なる2つの方法論を混合することで,“より深い理解”という産物が生まれることは一種の驚きである。実際,混合研究法の計画や分析には想像力が必要であると思う。混合研究法は両者のデータを想像力によって混合し,数値データに意味や解釈を与え,また,対象者の語りや行動に数的な理解を与えていくプロセスであるように思える。結果を眺めると,数的な違いの理由が,「そうだったのか」と質的に確かに納得できることが多い。
2015年9月に開催された国際混合研究法学会(MMIRA ; Mixed Methods International Research Association)アジア地域会議/第1回日本混合研究法学会学術大会(於:立命館大学いばらきキャンパス)では,国内外から300名を超える参加者を迎え,さまざまな研究分野の研究者等が一堂に会し,どのセッションも熱気に満ちあふれていた。その中で筆者は学会の企画と基調講演の好機を得て,看護学研究における混合研究法の例を紹介させていただいた。本稿ではそれをもとに,看護研究においてどのように混合研究法が活用可能であるのか,具体例を交えて述べる。
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