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はじめに
理論開発を教えることの重要性
本セミナーのテーマは「看護学における理論開発」としていますが,まずは,なぜ理論開発をテーマにしたかについて簡単にお話します。
本学の博士課程で理論開発に挑み,この3月に博士課程を修了した髙橋智子さんという学生がいます(次稿の髙橋智子さん参照,508-515)。本日のこのセミナーにも参加されているのですが,私は彼女が1年生のときから博士論文の指導に携わり,また審査にも入らせていただいたので,論文執筆の過程をずっとみてきました。私は博士後期課程の1年目に研究計画書セミナーという授業も受け持っているのですが,彼女はそれにも参加していました。研究計画書セミナーまでは順調に取り組んでいたものの,自身の研究において理論開発の方法を学ぶところで,よいテキストを探すのに大変苦労していました。国内外問わずたくさんの書籍を探し,それらを読み,勉強しながら,自らの研究方法を構築していました。その姿をみて私は,博士課程の中でもっと理論開発について教えていかなければいけないと改めて思いました。現在も研究計画書セミナーに参加している大学院生で理論開発をしたいという学生がいるのですが,図書館にその髙橋さんの博士論文があるので,理論開発の方法を参考にしながら研究を進めているところです。いまのところ,スムーズに研究計画を進められているかなと思います。また,髙橋さんの研究は,今回の第39回日本看護科学学会学術集会のポスター「急性期看護における日常生活ケアモデルの構築」としても発表されています。本日は,彼女が挑んだ理論開発の研究(髙橋,2019)もまじえながらお話したいと思います。
まず,どのように理論開発を進めていけばよいのかということについて,さまざまな方法があることを示していく必要があると思っています。そのことを考えるときに大きな課題になるのが,日本ではコースワークが必修になっていないという点です。アメリカで博士課程を修了した方はご存知と思いますが,アメリカの大学院ではコースワークが必修です。コースワークを2〜3年かけて学び,修了しなければ卒業ができません。私はニューヨーク大学に留学していましたが,当時はその重要性や理論開発の大変さを深く認識しないまま理論開発のクラスや理論評価のクラスをとっていた気がします。ですが,日本で指導を重ね,今回の髙橋さんのようなケースに遭遇し,コースワークの重要性,そして日本ではコースワークが必修になっていないことの問題に気づき,深く考えるようになりました。
コースワーク自体は,日本赤十字看護大学にもあります。理論のコースもあれば研究手法のコースもあり,さまざまです。しかし,これらは必修にはなっていません。そのために,理論開発の理解にはつながらず,どのようなプロセスで理論開発を進めていけばよいのかということがなかなかわからないのです。ですから,日本の博士課程では理論開発が不可欠であり,きちんと教えていく必要があるということを,まずは教育者としてしっかり認識しなくてはいけないと思います。そうしないと,看護学の知の発展にはつながっていきません。以上のことを前提に,ここからは,「看護学」「看護学における理論」「理論評価」「理論開発」というそれぞれのテーマに分けてお話したいと思います。
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