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はじめに
本稿では,課程博士論文の場合を取り上げるが,最初に博士論文の審査とメンタリングプロセスの関係について,立教大学大学院社会学研究科を例に検討する。制度的プロセスとメンタリングプロセスの関係,あるいは,前者に後者をどのように組み込むべきかという問題である。メンタリングとはそもそも経験豊かな者が経験の浅い者を,相互の信頼感を前提に,指導する,教えるという意味であるから,教員と院生の具体的な人間間での行為なのであるが,他方で,博士論文の審査という制度的枠組みを通過していかなくてはならない。したがって,メンタリングと制度の関係を検討することは現実的に意味がある。
なお,ここでは看護学研究科ではなく私が直接かかわっている立教大学大学院社会学研究科を紹介するが,専門領域は違っても基本的に考えるべき点には共通した面があると思われるし,他の研究科での改革と実践の実情を知ることで,看護領域の人々にもさまざまに参考になるのではないかと考えている。特に2006年度から博士論文の審査を,指導を重視する新しい方式に変更したので,1つの改革実践例として参考になると思われる。
次いで,博士論文の作成に至る最初の課題である分析基礎力を院生にどのようにつけさせたらよいのかという課題について,筆者の経験を参考に考えてみたい。博士論文となると,研究計画書の作成やデータ収集,分析が議論されることになるが,その前,できれば前期課程1年目で,きちんとした基礎力を身につけておくことが非常に重要であると考えているからである。質的研究法を用いた博士論文に取り組む場合,当該研究方法の理解が重要であることは言うまでもないが,その「理解」とは研究法の解説書の学習だけで十分ではなく,考え方を身につけておく必要がある。この分析基礎力如何によって質的データの解釈に大きな差が出る。しかし,この学習が不十分なまま実際に博士論文の作業に入ると,いわば実戦本番になり院生本人はむろん悪戦苦闘で大変であるが,指導する教員の負担が格段に大きくなる。系統立った指導により,こうした現状は可能な限り避けるべきであろう。
メンタリングプロセスは大学院教育全体の枠組みの中で捉えることができ,ここでは基礎力形成段階と博士論文の審査段階に分けて問題提起を試みる。なお,私はこの間に,ワークショップ形式によるデータ分析の実習を位置づけており,課題としては同じデータからライフストーリーを中心にした個別理解と分析焦点者を介したM-GTA(modified grounded theory approach)の分析を経験させているが,ここではその紹介は省略する。ただ,この段階の必要性と重要性は本稿により理解できるであろう。
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