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博士論文とは
米国のオレゴンヘルスサイエンス大学看護学部の博士課程のコースワークを終えて帰国し,1992年4月から聖路加看護大学で博士課程学生の論文指導をしていたが,そのときのことで強く印象に残っていることがある。それは,「博士という学位はどのようなものか」という問いである。当時,東京大学から聖路加看護大学に来られた山本俊一教授から「学問とは」「研究とは」「博士論文とは」などいろいろなことを教えていただいた。山本教授によれば,元来,「博士号」とはこれまでの業績に対して与えられるものである。研究・教育業績,人格ともに優れている人に対して「博士号」が付与される。しかし,現在の大学院においては研究者としてのいわばお墨つきのようなものが「博士号」である。したがって,博士論文作成は研究者としての始まりであり,論文そのものも評価されるが,何よりもその後どのような仕事をし,業績を残すかが重要である。これまでの業績に対する「博士号」から,研究者として歩み出すことの承認としての「博士号」に変わっていることを確認する必要がある。
私自身,一人の人間が生涯をかけて行なう研究は,そんなにはないと思っている。看護学分野においては,看護研究だけに取り組める立場にある者はきわめて少なく,ほとんどの看護専門職者は臨床や教育の現場で働きながら身を削るようにして研究の時間をつくり,研究論文を生み出している。それから考えると,看護専門職者にとって博士課程での論文作成は,最も時間とエネルギーを費やすことのできる研究の取り組みである。博士論文の取り組みとその時間は,論文という形を生み出すことの苦しみや,時には人間関係の苦労を伴うが,研究方法の習得だけではなく,研究者としての成長につながる貴重な体験であり,その意味でも論文作成のプロセスは大切である。
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