連載 NIPTと優生思想をめぐって・3
出生前診断と優生思想
仁志田 博司
1
1東京女子医科大学
pp.504-510
発行日 2019年6月25日
Published Date 2019/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665201292
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出生前診断とは
出生前診断(antenatal diagnosis)とは胎児診断(fetal diagnosis)と同義語で,近年は超音波などの画像診断および胎児採血や羊水検査により,胎児の状態や疾患の有無を診断することが可能となってきた。それによって,生まれる前に多くの児の疾患や問題が明らかとなるので,例えば横隔膜ヘルニアのように,児が泣かないように麻酔をして帝王切開で出生させ,すぐに挿管して手術まで状態を安定させる管理で救命率が向上している1)。しかし同時に出生前診断そのものには,これまで述べてきたNIPTをめぐる議論と同様に多くの倫理的問題が含まれている2)。
歴史的に出生前診断が優生主義と関連して議論となったのが,妊娠11〜14週頃に超音波で胎児の後頸部に認められる浮腫像(nuchal translucency:NT)である。NTの大きさが5mm以上であると胎児の異常,特にダウン症候群が50%以上の確率であるとする報告から,ある時期にはその所見ゆえに妊婦に多大な不安を与え,中絶される事例もあった。しかし現在では,その大半が自然退縮することが明らかとなり,他の所見と組み合わせて経過を見るようになった3)。
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