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本連載を始めるにあたって
母体の採血により胎児の染色体を検査する無侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-invasive prenatal genetic testing:NIPT,正しくは母体血による胎児染色体検査)は,従来のトリプルマーカーなどの方法に比べ飛躍的にその感度および精度が高い出生前検査であり,わが国でも早晩広く普及することは間違いない。しかし,現段階のNIPTはスクリーニング検査であり,偽陽性の場合は侵襲的な羊水穿刺による確定診断が不可欠である。ところがそれをスキップして中絶を選択する妊婦がいることは,NIPT導入により正常な染色体の胎児がその命を奪われるリスクという大きな倫理的問題を含んでおり,産科および新生児科医師に加え遺伝カウンセラーなどの専門集団の関与が不可決である。
産科グループが中心のNIPTコンソーシアムによるハイリスク妊婦を対象とした5年間の臨床研究を経て,2018年よりNIPTが一般臨床に組み入れられるようになった。それから,「誰でも,いつでも,手軽に,安く」とビジネス感覚で行う医療施設が多数出現している。このような優生思想による安易な生命の選別の流れを正すために,NIPTそのものおよび臨床への応用に関する正しい知識を,医療者のみならずクライアントとなる妊婦にも知ってもらうこと,そして一般社会へその重要性を啓発することは,周産期医療に携わっているわれわれの責務である。
現在の周産期医療の現場における最も重要かつ未来にも影響を及ぼす問題であるNIPTに特化した本連載では,最初にわが国におけるNIPT導入の過程,その問題点と現状,さらに優生思想の倫理的問題点を解説した後に,法的観点から,臨床の現場から,さらにクライアントの立場からの論説を掲載する予定である。
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