連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・48
環境から養われる生命力
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.276-277
発行日 2008年3月25日
Published Date 2008/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101194
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環境への適応能力はいったいどこで生まれるのか?
先進国では赤ちゃんにとって望ましい環境が人工的に作られ,提供される。ストレスが少ない環境に生まれ出た結果,生活環境の多彩さに適応する能力が獲得し難い,そういう皮肉な現状が起こっているのかもと思う。貧困の子どもは驚くほど強い。
おそらくお産は10回以上,しかし本人は生きている子どもしか産んだ数に入れない。だから本人いわく「8人目」のお産をする32歳のベス。彼女のお産に付き添うのはこれで3回目になる。前々回のお産は第3期が6時間もかかった。多産というリスクも考えると,少しでも異常に対応できる用意はしておきたい。だから「絶対クリニックで産んで!」と道で顔を合わすたびに声をかけていた。それにもかかわらず,ベスはほぼ本能的に生まれる寸前まで我慢し,自宅出産を強行したのだ。私が駆けつけたときはすでに卵膜が排臨。粗末な自宅で用意万全とばかりにぼろ布を敷いた床に横たわっているベスを見ては,「ぎりぎりで呼びやがったな」という思いを表情で伝える。ベスは不敵な笑いを浮かべながら「ね,もうクリニックへ行けないでしょう?」。そう答えた。
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