連載 生殖補助医療 “技術”がもたらした現実と未来⑩
代理懐胎の是非―小児科医の立場から
斎藤 加代子
1,2
1東京女子医科大学小児科
2東京女子医科大学大学院先端生命医科学系遺伝子医学
pp.520-524
発行日 2003年6月1日
Published Date 2003/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100543
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はじめに
生殖補助医療技術の進歩により,精子,卵子,受精卵の提供や妊娠,出産の代理などが可能となり,その結果,従来の家族の概念では考えられないような家族関係を形成し,遺伝的関係のない親子関係を作ることになった。「子どもがほしい」というニーズに,十分な倫理的考察を欠いたまま医療が応えていくことは,多くの問題を含んでいる。代理懐胎では,依頼されて妊娠し,子を産んだ女性が出産後,子を依頼者に引き渡すことになる。このことは,妊娠と出産により育まれる母親と子の絆を無視し,子の福祉に反し,子の権利を侵すものである。とくに,出産した母親が子の引き渡しを拒否したり,また,子が依頼者の期待と異なっていた場合に,依頼者が引き取らないなど,当事者が約束を守らない可能性も出てくる。子の生活環境が著しく不安定になるだけでなく,子の精神発達過程において,本人に深い苦悩をもたらすであろうことが推定される。
「生まれてくる子の母は,その子を妊娠・出産した女性である」ということを原則とするべきである。子どもの権利とその人間的尊厳は,大人の側の子どもを持つ権利よりも重視されるべきである。
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