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はじめに
ともに日本人である依頼人,すなわち妻とその夫が,それぞれの配偶子を受精させ生じた胚を,アメリカ合衆国ネバダ州において,既婚者であるアメリカ人女性の子宮に移植して妊娠が成立した.アメリカ人女性は双子を出産し,依頼人である日本人夫婦は自分たちの遺伝子を引き継ぐこの双子を日本に連れて帰り,実子としての嫡出子出生届を役所に提出したところ,受理されなかった.この日本人夫婦が,事前にアメリカにおける代理懐胎の事実を公表していたために,この日本人妻に分娩の事実がないことを自ら明らかにしていたこととなり,この夫婦の実子とは認められなかったのである.後にこの夫婦は,出生届の受理を求めて提訴したが,最高裁判所においても認められることはなかった.この夫婦が著名人であり,この事案をマスメディアを通じて積極的に公表したことにより,代理懐胎という生殖補助技術がにわかに世間の耳目を集めることとなった.
一般国民を対象とした調査や公的機関における検討が重ねられるなか,今度は日本人夫婦がインドにおいてインド人女性との間に代理懐胎の契約を結んだ.妊娠が成立したこのインド人女性が分娩に至る前に,依頼人である日本人夫婦が離婚したために,出生した新生児が依頼人夫の希望どおりに日本に向かうことができなくなり,大きく報道されることとなった.
このように国境を越えて行われた生殖医療については,それぞれの国での生殖補助技術に対する考え方,規制の方法,さらには家族を構成する規範となるべき法体系が異なることより,複雑な問題が発生する.本稿では,代理懐胎に対しての現在における日本のスタンス,および先進国を主とした諸外国の歴史と現状を概観する.
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