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はじめに
ビスフェノールA(BPA)は,内分泌撹乱物質として環境庁よりリストアップされた物質の1つであり,その国内生産量は約50万トンにも及ぶ。BPAを原料とするポリカーボネイト(PC)樹脂は,電気・電子機器,自動車の製造原料として使用されており,人が直接体内に摂取する可能性のあるものとしては,食器類や医療機器があげられる。
同様に,BPAを原料としたエポキシ樹脂は,缶詰製品の内側のコーティング材質に使われている。その他には,歯科治療用のレジンにも混入されている可能性が指摘されている。
BPAの化学構造は,女性ホルモンと類似している部分があり(図1),体内に取り込まれたBPAも女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプター)に結合してしまう可能性があり,人の内分泌環境を混乱させる危険性が危惧されている。動物実験では,マウスの胎児に自然環境中に存在する量のBPA(2.4μg/kg)を負荷した結果,性的早熟が観察されたという研究報告がある1)。
しかし,このBPAは,女性ホルモン活性の1万分の1以下の活性化しかないことから,実際には,体内に取り込まれても肝臓での代謝作用によって“抱合体”となり,尿中や糞便中に排泄されていく。これまでに報告されているヒトサンプルのBPA濃度の測定結果を表1に示す。
筆者は,初乳検体からBPAを抽出し,また,その濃度が臍帯血や羊水,成人血清中のBPA濃度と比較して高い濃度であることを明らかにし,授乳行為により母乳を介して母乳を飲む児にBPAが移行していることを報告した5)。また,そのBPA濃度が,缶コーヒーやカップめん,コンビニ弁当などのBPAが溶出する食器包装容器をより多く摂取した母親から分泌された初乳に,多く含まれる傾向があることを報告した5)。
とくに缶コーヒー飲料では,食品への金属の溶出や味の変化を抑制するために,内面がBPAを使用したエポキシ樹脂や塩化ビニル樹脂による塗装,またはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの貼り合わせがなされている。そのうち,エポキシ樹脂には原料として,塩化ビニル樹脂には安定剤としてBPAが使用されていることから,BPAが塗膜中に残存しコーヒー飲料中に移行している6)。
今回,BPAが体内に摂取されてから乳汁中への移行,および尿中に排泄されるまでの体内動態を明らかにする研究に取り組んだので報告する。
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