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1.はじめに
喫煙は肺およびバッカル/鼻腔皮膜組織からのニコチン吸収となり,ニコチンの吸収は非常に速く,肝臓のCYP2A6により8割はコチニンに代謝され,トランス3´-水酸化コチニンへと無害な物質に変わり,70~80%が腎臓から排泄される.図11)にニコチンとコチニンの代謝とCYP2A6多型について示した.さらに,吸収されたニコチンは主にトランス3´-水酸化コチニンとして排泄され,コチニン(15.0~24.5%),コチニンN-グルクロン酸抱合体(5.1~10.2%),トランス3´-水酸化コチニンO-グルクロン酸抱合体(5.3~12.9%)として主に排泄される1).体液中のコチニンは安定で約17時間の長い半減期がある.また,ニコチン代謝が短いので喫煙者が再度すぐに喫煙したくなり,無害なコチニンにならなかった残りの2割が有害な発癌物質などに転換されるともいわれている.したがって,血液,尿,唾液を試料とする場合は半減期の短いニコチンよりも長いコチニンのほうが有用である.喫煙者の接着分子sVCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)と血漿コチニンに正相関を認めたので動脈硬化症や喫煙高血圧と関連があるという報告や,Wilsonらは環境中たばこ煙曝露での白人子どもよりアフリカ系アメリカ人の子どもの血清と毛髪のコチニン濃度は有意に高値を示すと報告している.
コチニンの分析にはLC/MS(liquid chromatography/mass spectrometry:液体クロマトグラフィ質量分析計),GC/MS(gas chromatography/mass spectrometry:ガスクロマトグラフィ質量分析計),HPLC(high-speed liquid chromatography:高速液体クロマトグラフィ)などがあり,特別の設備や複雑な操作を要求するが,ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay:酵素免疫測定)法は比較的簡便である.
Accuracy-One社のSmoke-COTテストのように尿中コチニン濃度200ng/mlがcut-offとなるイムノクロマト法も市販されており,喫煙状態の判定のみの目的に使用されているが2),唾液使用には感度が低すぎる.石川ら3)~6)は抗アミノエチルコチニン抗体および抗6-アミノニコチン抗体を用いる非競合法の高感度なELISA法を報告しており,コチニンはビオチン化効率が高く,0.03fmolの測定感度を得ているが,抗体の特異性が低いという問題がある.
近年,受動喫煙は大きな社会問題となり,受動喫煙の生体への影響および取り込み検査のために高感度コチニン測定の必要性が望まれている.現在市販の簡易キットは喫煙者を対象としているが,受動喫煙レベル感度のELISA試薬は少ない.血液,尿,唾液を試料とする能動的および受動的喫煙のコチニン測定ELISAキットを多く扱っている会社の製品と性能評価の一覧を表17)に示した.唾液をスポンジに吸わせてその唾液からニコチンの代謝物であるコチニンを測定する試薬もある.
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