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はじめに
本年,ついにわが国の高齢者人口動態において,後期高齢者数が前期高齢者数を上回り,当面その差はどんどん広がることが明らかである。2025年問題に対して多くの関係者はこれまで対策を検討し,実行しつつあると思われるが,より政策効果を高めるために,これまで以上の政策的イノベーションが必要である。
“Smart(スマート)”という言葉が最近よく使われる。これは賢いという意味となるが,筆者らは10年前にスマート・ウエルネス・シティー(SWC)という言葉を提示し,このまちに住むと自然と健康になるまちづくり(この場合のまちづくりはハードとソフトの両面を意味する)を多くの自治体と研究し,在るべき姿を求めて政府の特区制度等を活用しながら社会実験を繰り返してきた。ここ数年は,SWCという言葉の代わりに“健幸都市”という言葉を用いることが多くなったが,担当課名としても「健幸」という言葉が多数の自治体で用いられている。地域包括ケアシステムを本当の意味で完成させるためには,まちづくりの視点が重要となるが,保健師の皆さんの興味関心はまだ低いのが実情である。
筆者らは,2014(平成26)年度から3年間にわたり,国と連携して健康づくりにおけるインセンティブ効果を検証するために,6自治体の連携による大規模なヘルスケアポイント実証実験を行った。この主な成果としては,後述するように約1万2600人が参加し,そのうち約77%が健康無関心層であったこと,および1年で1人当たり5万円という医療費の抑制効果も確認された。その後,本成果を参考にしながら厚労省はヘルスケアポイントの事業実施に対するガイドラインも策定している。
ヘルスケアポイントを取り入れる自治体や企業健保は飛躍的に増加しつつある一方,事業を開始して数年経つ保険者の多くにおいて成果があまり出ておらず,事業改善が求められている。なぜ成果が乏しいのか? 筆者らの分析で見えてきたことの1つとして,成功していない保険者は予算の制約や人手不足から,効果が不十分であっても値段が安いことが民間サービスの採用の規準となっていることが挙げられる。すなわち成果を出すための事業デザインが不十分なことが根本的な要因となっている。
このような状況を打破していく新たな制度や取り組み方法が必要となるが,筆者らは現時点での解決の手段として最も適当なのがソーシャル・インパクト・ボンド(SIB,詳細後述)であると考える。そこで,本稿ではインセンティブによるヘルスケアポイントの成果を出すために,SIBの活用について解説する。
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