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はじめに
昨年末の金融破綻で,以来,経済活動は急激に活性を落とし不況に転じました。端を発したのは米国のサブプライムローン問題なのですが,ビジネスのグローバライズにより,恐慌は米国一国にとどまらず,世界経済全体に波及しました。このような経済危機は,1929年の世界大恐慌の再来とまでいわれ,「100年に一度の不況」と呼ばれています。
経済が完全に復活するにはまだ時間がかかるというのが専門家の見方ですが,このような「元気のない社会」では,メンタル障害が増加する傾向にあることは歴史が語っています。実際,将来に対しての不安が募り,メンタル障害になる例やストレス障害が増えています。そんななか,不況時と好況時の両極端の時期に増えるメンタル問題があります。それは,不況時はその辛さを凌ぐために,好況時はさらなる快感を得るために使われる薬物(ドラッグ)関連の問題です。
日本でのこのような問題は,アルコールや違法薬物の乱用と,依存として現れますが,今回の不況に乗じた増加はまだ認められていません。しかしながらこの数年の,大学生を中心にした大麻所持事件などが示すように,薬物乱用の若年齢化の背景を考えれば,安易な違法薬物使用の増加の温床があり,今後しばらくは経済回復が見込めない社会情勢では,先の懸念は現実のものとなるかもしれません。このような状況下では,薬物によるメンタル問題についての知識は保健師に必須であると考えられます。
今回のclinical conferenceは,2ケースともにアルコールに関連する問題をとりあげますが,一方はアルコール依存症の離脱期に起こったケースで,もう一方は覚醒剤の使用経験者がアルコールを摂取したことが原因でフラッシュバックを起こしたケースです。後者は覚醒剤使用後遺症の範疇に入るケースです。それぞれ病的体験がみられたことで,問題が出現した2ケースということになります。
以前,連載第9回「clinical conference 2:アディクション症例」(2009年2月号)で提示したケースでは,依存症の継続した治療に関して解説しましたが,今回は急激な病状変化に対する迅速な判断と対応について解説します。
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