- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
一般的にメンタル障害のなかで一番知られているのは「うつ病とうつ状態」でしょう。“うつ”は「何の病か」と問われれば,その答えは“気分の病”です。精神疾患の診断分類でもカテゴリーは気分障害に分類されます。この“気分”には“躁とうつ”の2極があるのはいうまでもありません。沈んだ状態が“うつ”,俗にいうハイな状態が“躁”ですが,気分“障害”というからにはそれらの程度が著しく継続し,生活に支障を来す状態をいいます。一般に表記される「うつ病」という診断名も,その経過などを考慮した詳細分類では,うつ病相(phase)しか示さない単極性うつ病,またはうつ病相と躁病相の両極をもつ双極性気分障害のうつ病エピソードの,いずれかに属するのです。
「うつ病やうつ状態」がこれほど取り上げられることが多いにもかかわらず,「躁病や躁状態」があまり取り上げられないのはどうしてでしょう? 疫学的にうつ病に比べて躁病が少ないことと,うつ病のように何らかの予防対策や事後対応をすることで,発症や再燃を劇的に抑えられるという知見が少ないからではないかと思います。今回はその“躁”に関するclinical conferenceです。まず簡単な知識を記しておきましょう。
人はだれでも時に気分が高揚することはありますし,いわゆる“気分がハイ”な状態というだけでは病気とはいえません。躁状態とはどんな症状を示すのでしょうか?
まず特徴的なのは,“爽快気分”(気分爽快ではありません)です。さまざまな了解不能な突飛な行動にはこの爽快気分が伴います。もし,その了解不能な行動を批判されても気にせず,その行為を続けるか,何かの閃きに取り憑かれたように次の行為へと移っていきます。注意は転動し,次々と目にとまったことに注意の的は動いていきます。行動の裏側には思考として次々と考えが浮かんでは消えて,まとまらない思考の状態を“観念奔逸”といいます。
活動は過活動であって,不眠ですが,この不眠は眠らなくても大丈夫という不眠であって,うつ病のような眠れないことを悩み苦痛と感じるような不眠ではありません。また,万能感による誇大妄想様の病的体験もみられます。このような症状が著しくなれば,生活に支障を来し,自分自身が不利益な状態になるのは容易に想像できると思います。
このような症状が継続している状態で病識が出ることはほとんどなく,関係者のサポートなしに治療には結びつきません。この点では病気をよく理解し,疑わしい症状の程度が軽い時期に関わり助言することは最大のサポートとなります。
このシリーズの各論では“躁病”や“躁状態”についてとくに論じませんでした。その理由は,“躁病”や“躁状態”のケースでも上述のような知識は必要ですが,多くのケースで対応は決まっていて複雑であることは少なく,前号で取り上げた「うつ状態」のような自称うつ病や疾病利得を行使するようなケースは“躁病”や“躁状態”のケースではみられないからです。ですから,今回例示したケースのclinical conferenceを疑似体験してもらえれば,症状や対応はマスターできると考えています。
今回例示する2つは,単極の躁病のケースと双極性の躁病相のエピソードに関するケースです。
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.