看護人間学のための論理療法入門・12
実践編の3 欲求不満
伊藤 順康
1
1東京理科大学
pp.494-497
発行日 1988年8月25日
Published Date 1988/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908541
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無意味な人生
ここに紹介するマイラ・ベイスンの例もまた,物の見方を変えることは,取り乱した人が深い欲求不満と苦痛の感情から脱するのに最も有効であることを示す実例である.マイラがハーパー博士の所へ来たのは,彼女が2年来の恋人と別れ,彼がもっとお金持ちの女性と婚約した直後だった.彼女は寂しさのどん底にあり,恋人を取り戻すことももはやできないし,もう生きることも何の意味もない,と博士に言い張った.博士は大いに同情したが,頑として彼女の言うことは馬鹿げていると反論し,数か月か,1,2年以内に,前の時と同じように愛せるような恋人ができるだろうと述べた.
「あなたは何もわかっていないようです」マイラは今度は泣きながら言った.「彼は私のもとを去ってしまったのです.私はただ彼を愛していたというだけでなく,私の未来はすべて彼とのかかわりで描かれていたのです.もう何もかも無意味です.何をしても,どこへ行っても,何か考えようとしてみても,彼がいなければ何の意味もないのです」そう言って彼女は,ティシュペーパーで顔を覆った—この面談でもう12回目だった.
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